一様水深と斜面が接続した地形での長波 †
条件 †
下の図のように,水深 \(h_0\) の平坦な地形と勾配 \(\gamma\) をもつ斜面が繋がった断面2次元地形を考える.
斜面の高さが水面と一致する点を \(x=0,~z=0\) とし,斜面と平坦な部分の境界を \(x=x_0\) とする.
したがって, \(h_0 = \gamma x_0\) である.
この地形における線形(微小振幅)長波の周期解を求める.
手順としては,一様水深部と斜面部でそれぞれ定数を含んだ解を求め,地形境界 \(x=x_0\) で互いの解を満たすように定数を決めて接続する.
境界でうまく接続するための条件は,一様水深での水位を \(\eta_f\),斜面での水位を \(\eta_s\) とすれば,\(x=x_0\) において
\[
\eta_s = \eta_f \tag{1}
\]
かつ
\[
\frac{\partial\eta_s}{\partial x} = \frac{\partial\eta_f}{\partial x} \tag{2}
\]
である.
以下では,\(\eta_f\) と \(\eta_s\) をそれぞれ順番に求め,上の式(1),(2)を使って接続した解を求める.
一様水深部の解 †
導出過程は微小振幅長波に記載.
水平方向流速 \( u\) や 重力加速度 \( g\) などの文字と変数・定数の対応はこのページを参照.
微小振幅 \(\eta \ll h\) でかつ長波 \( h \ll L, ~ kh \rightarrow 0\) のとき,運動方程式と連続式はそれぞれ次の式のように表せる.
\[\begin{align}
\frac{\partial u}{\partial t} = -g \frac{\partial \eta}{\partial x} \tag{3} \\
\frac{\partial \eta}{\partial t} + h \frac{\partial u}{\partial x} = 0 \tag{4}
\end{align}\]
この2式を整理すると次式の1次元波動方程式になる.
\[\begin{align}
\frac{\partial^2 \eta}{\partial t^2} - c_0 \frac{\partial^2 \eta}{\partial x^2} = 0 \tag{5}\\
c_0 \equiv \sqrt{gh_0} \tag{5}
\end{align}\]
この \( \eta \) の解は任意関数 \( f \) と \( g \) を用いて
\[\begin{align}
\eta(x,t) = f(x-c_0t) + g(x+c_0t)
\end{align}\]
と表せるのであった.
\( f(x-c_0t) \) は \(x\) の正方向に,\( g(x+c_0t) \) は \(x\) の負方向に波速 \(c_0\) で伝播する波である.
ここで上の図より,一様水深部の波の挙動は,図の右端から左に進行する入射波 \(\eta_i\) と,
斜面と一様水深の接続部から図の右端に進行する反射波 \(\eta_r\) の合成波で構成されると考えると,
入射波と反射波がそれぞれ \( g(x+c_0t) \), \( f(x+c_0t) \) に対応していることがわかる.
したがって,入射波の振幅を \(A_i\) (既知の実数),反射波の振幅を \(A_r\) (未知の複素定数)とし,周期性を仮定して一様水深部の水位 \(\eta_f\) を次式のように定める.
\[\begin{align}
\eta_f(x,t) &= \eta_i + \eta_r \\
&= A_i e^{-i(k_0 x + \omega t)} + A_r e^{i(k_0 x - \omega t)} \tag{6}
\end{align}\]
ここで,\(k_0 \equiv \dfrac{\omega}{\sqrt{gh_0}}\) である.
式(2)より,\(\eta\) の \(x\) に関する微分が必要である.微分すると
\[\begin{align}
\frac{\partial \eta_f}{\partial x} = -ik_0A_i e^{-i(k_0 x + \omega t)} + ik_0A_r e^{i(k_0 x - \omega t)} \tag{7}
\end{align}\]
となる.
斜面の解 †
斜面の場合の導出過程も微小振幅長波に記載.
運動方程式は一様水深の場合と同様に
\[\begin{align}
\frac{\partial u}{\partial t} = -g \frac{\partial \eta}{\partial x} \tag{3}
\end{align}\]
であり,連続式は
\[\begin{align}
\frac{\partial \eta}{\partial t} + \gamma \left( \frac{\partial u}{\partial x} x + u \right) = 0 \tag{8}
\end{align}\]
である.この2式から得られる解は第一種ベッセル関数 \(J_0\) をもった形式となり,
振幅を表す定数を \(A_s\)(未知の複素定数)とすれば斜面の水位 \(\eta_s\) は次式にようになる.
\[
\eta = A_s J_0\left(2\omega\sqrt{\frac{x}{g\gamma}}\right) e^{-i\omega t} \tag{9}
\]
これも次の解の接続のために \(x\) に関して微分しておく.\(J’_0(x) = -J_1(x)\) を利用して
\[\begin{align}
\frac{\partial \eta_s}{\partial x} & = - \frac{2\omega}{\sqrt{g\gamma}} \frac{1}{2\sqrt{x}} A_s J_1 \left(2\omega\sqrt{\frac{x}{g\gamma}}\right) e^{-i\omega t} \\
&= - \frac{\omega}{\sqrt{g\gamma x}} A_s J_1 \left(2\omega\sqrt{\frac{x}{g\gamma}}\right) e^{-i\omega t} \tag{10}
\end{align}\]
解の接続 †
2つの地形条件での解がそろった.
既知の入射波振幅 \(A_i\) に対して未知の複素振幅定数 \(A_r\) と \(A_s\) があるため,接続条件の式(1),(2) を使ってこの2つの定数を求める.
見やすくするために
\[\begin{align}
t_0 = \frac{x_0}{\sqrt{gh_0}} \\
\end{align}\]
とすると,\(k_0x_0=\omega t_0\) となる.
また,
\[\begin{align}
\sigma &\equiv 2\omega\sqrt{\frac{x}{g\gamma}}, \\
\sigma_0 & \equiv 2\omega\sqrt{\frac{x_0}{g\gamma}}
\end{align}\]
とする.
これまでの過程を踏まえると,\(x=x_0\) で 式(6)= 式(9),式(7)= 式(10)が成り立てばよい.
それぞれ整理すると
\[\begin{align}
A_s J_0(\sigma_0) e^{-i\omega t} &= A_i e^{-i\omega (t_0+t)} + A_r e^{i\omega (t_0-t)} \tag{11} \\ -iA_s J_1(\sigma_0) e^{-i\omega t} &= A_i e^{-i\omega (t_0+t)} - A_r e^{i\omega (t_0-t)} \tag{12}
\end{align}\]
式(11)+式(12)より \(A_r\) を消去して
\[\begin{align}
A_s & = \dfrac{2}{J_0(\sigma_0) -i J_1(\sigma_0)} A_i e^{-i\omega t_0} \tag{13} \\
&= \dfrac{2}{J_0(\sigma_0) -i J_1(\sigma_0)} A_i e^{-ik_ox_0}
\end{align}\]
式(13)を式(11)に代入して
\[\begin{align}
\dfrac{2J_0(\sigma_0)}{J_0(\sigma_0) -i J_1(\sigma_0)} A_i e^{-i\omega (t_0+t)} = A_i e^{-i\omega (t_0+t)} + A_r e^{i\omega (t_0-t)}
\end{align}\]
\[\begin{align}
A_r = \dfrac{J_0(\sigma_0) +i J_1(\sigma_0)}{J_0(\sigma_0) -i J_1(\sigma_0)} A_i e^{-i2k_0x_0} \tag{14}
\end{align}\]
よって,\(\eta_f\) と\(\eta_s\) は入射波振幅 \(A_i\)を用いて以下のように書き表せる.
\[\begin{align}
\eta_f &= \eta_i + \eta_r \\
&=A_i e^{-i(k_0x+\omega t) } + \dfrac{J_0(\sigma_0) +i J_1(\sigma_0)}{J_0(\sigma_0) -i J_1(\sigma_0)} A_i e^{i(k_0(x-x_0) -\omega (t+t_0)) } \tag{15} \\
\eta_s &= \dfrac{2J_0(\sigma)}{J_0(\sigma_0) -i J_1(\sigma_0)} A_i e^{-i(k_0x_0 + \omega t)} \tag{16}
\end{align}\]
これらの式の挙動は次の図のようになる.
実部を虚部をとった図.アスペクト比は1:1:1でないので注意.
鉛直方向に拡大して入射波と反射波を破線で,さらに実部を虚部を別々に描いた.
描いたものの結局よくわからない.
おまけ †
入射波振幅や入射波周期を変えて遊んでみる.
この解は微小振幅と長波を仮定しているが,
水深が浅い領域では微小振幅の近似が成り立たなくなり,入射波周期を短くすると長波の仮定が成り立たない.
特に,水深が0に近づくにもかかわらず微小振幅を仮定をそのまま適用していることに若干の無理がある.
したがって,この解を使ってそれらしい挙動が見られる条件は限定的であり,
ちょっとパラメータをいじると,水が外部から無限に湧いて出てくるような見栄えになってしまう.
参考文献 †
- Lautenbacher, C. C. (1970). Gravity wave refraction by islands. Journal of Fluid Mechanics, 41(3), 655–672.
- Synolakis, C. E. (1991). Tsunami runup on steep slopes: How good linear theory really is. Natural Hazards, 4(2–3), 221–234.
- Madsen, P. A., & Fuhrman, D. R. (2008). Run-up of tsunamis and long waves in terms of surf-similarity. Coastal Engineering, 55(3), 209–223.
- Madsen, P., & Schaffer, H. (2010). Analytical solutions for tsunami runup on a plane beach: single waves, N -waves and transient waves. Journal of Fluid Mechanics, 645, 27–57.